「組長って辛いよ」 後藤組組員らによる殺人事件関連損害賠償請求訴訟の背景

*今年9月28日 The Atlantic Wire (米国大西洋通信)に掲載された英文記事の和訳)

この頃、かたぎ(一般人)の殺害の費用が2億円近くにまで値上がりをしてしまい、それは殺人依頼の額ではなく、組員が殺人を起こした時の賠償額なのだ!    元をたとれば、殺人のインフレの始まりは、山口組末端組員の愚行だ。数年前、京都府のマグドナルドで山口組末端組員がチーズバーガーを食い逃げした事に始まり上部団体組長や山口組組長にまでに求められて損害賠償の動きが高まってきた。

今年8月10日には、山口組(日本最大の暴力団約39,000人)の司忍組長と山口組後藤組・後藤忠政元組長らを相手取り、1億8700円を求める損害賠償請求訴訟は東京地裁に提訴された。提訴したのが、2006年3月に後藤組組員らに殺されたビル管理会社顧問の野崎和興さん(当時58歳)の遺族。来月にも被告側が和解する見込みだ。

結局、自分の配下による蛮行の代償を払った後藤忠政・元後藤組組長。民事責任は取ったが、刑事責任はあるかどうか不明。

和解が早まる事情もある。9月26日、野崎さんの殺人事件の事情を知り、実行犯とされる故近藤孝旧後藤組幹部の知人でもある元山口組組員(61)がタイから強制送還された。タイへ派遣されていた警視庁刑事が同日、元組員を、タイ発日本行き飛行機の機内で道交法違反容疑(無免許運転)で逮捕した。今後、警視庁は男性から、野崎氏及び近藤組員の殺人事件について事情聴取する方針。同時に交通安全の意識を高めるよう同組員を諭す(だろう)。

この事件は関係者にとっては「触らぬ神に祟りなし」的な問題。旧後藤組組長の後藤忠政氏は、野崎氏の殺人事件について殺人容疑で捜査されているが、本人は未だに殺人容疑で逮捕されていない。民事裁判で後藤元組長は殺害を依頼したことが認定されら、警視庁の捜査が再起動するのが必然。

ただし、この訴訟で一番迷惑をかけられたのが山口組(株式会社)の司忍組長(社長)。殺害の時期では、司組長は服役中で計画にも関与しておらず、許可もしていないうえ、また後藤元組長の尻拭いを強いられたことには怏怏としているはず。それは当然。自分の関知していない極悪事件の後始末を求められたら誰でも不愉快でしょう。しかも、この訴訟は山口組のイメージダウンだし、組織運営上の問題。

それだけでなく、もし訴訟は和解なしに原告が勝訴すると、山口組の財政状況を圧迫しかねない司法前例となってします。ヤクザを大企業として考えると、訴訟が非常に打撃的な法的前例になりかねない。

捜査関係者などによると、野崎氏は2006年ごろ、渋谷区の建物(約2,000,000,000円相当)の所有権を巡り、後藤組のフロント企業と対立していた。同年3月5日、東京都北青山の路上で後藤組員ら3人が野崎氏を追いかけて包丁で刺し殺した。この三人のうち、二人はすでに殺人容疑で起訴されている。実行犯で、後藤組長から指示を受けたとされる近藤孝元組員は一旦、殺人容疑で国際手配されていたが、逃亡中の昨年4月、タイで銃殺された。当局では、口封じ目的の殺人事件としてみて捜査中。

第一公判は近いうちに開かれる予定だったが、情報筋によると、山口組側がすでに全額支払いの和解案を申し入れたそうだ。山口組中間幹部は「この訴訟は判決が出るまで伸ばしたくない。敗訴したら大問題。例え話としてこの裁判はアップル対サムソンなら、我々はサムソン役だね」と皮肉る。

確かに異例の訴訟。当局によると、暴力団対策法が2008年に改正されて以来、初めて2008年の改正以前の暴力団犯行の民事責任を追及した訴訟。2008年の改正上、指定暴力団は企業として見なされ、組長クラスが企業の最高責任者と同様に「使用者責任」(従業員の損害の賠償責務)があると定められた。暴対法改正以降、少なくとも暴力団高官部を相手取る損害賠償請求訴訟三件は提訴されたが、いずれも和解で済んだ。

元警察庁組織犯罪対策部に所属し、民暴弁護士の芝昭彦先生によると、組長クラスの刑事責任を問うのが至難の業。だが、民事裁判で組長らの使用者責任を追及することが正義を果たす一役を担う。「暴力団対策法(暴対法)は刑法ではなく、行政法のようなものです。2008年の改正では指定暴力団が企業と同様な性質を持ち、民法715条(使用者責任について)の対象であると明記した。つまり、従業員(組員)が起こした事故や損害では、代表取締役の責任もある」と説明。以前、述べたように、暴対法改正後、「使用者責任」を根拠にヤクザのボスに対して少なくとも3件の損害賠償請求訴訟は提訴されたが、いずれも和解で済んだ。

芝先生は「抜本的な暴力団対策関連法律の立法が望ましいが、当分の間、民事裁判はそれなりの抑制力もある。損害賠償の金額はまんざら馬鹿にならない」と話す。塵も積もれば。。。

情報筋も同意見です。

現代の組長は昔の組長の立場と比べたら決して楽じゃない。最高責任者(CEO)という肩書きが重い。すべての従業員の責任を負わなくちゃならない。例えば、2008年の暴対法改正後、山口組のトップは部下のマクドナルドでの食い逃げ事件の後始末も強いられた。なぜかというと、日本では暴力団(ヤクザ)の存在を禁止していないが、当局が一部の暴力団(22組織)を指定し、規制はしているのだ。その規制も大変。

日本の暴力団は公の存在で事務所も名刺も”社歌”もある。ヤクザは「犯罪組織株式会社」のも同然。そして日本では、会社の社長(最高責任者)は配下の責任を負う法制。

(ヤクザ組織図にご参照)

こういう事件があった。2008年6下旬、京都市伏見区で38歳の赤木聖・山口組組員がマクドナルドのドライブスルーでチーズバーガーセット*(820円相当)を注文。だが、赤木組員は入れ墨を見せつけたうえ、「食い物は雨で濡れた。どないしてくれんねん」と因縁をつけて一円も支払わずに食い逃げ。しかし改正暴力団対策法は、資金獲得活動で被害を受けた場合、上部団体の組長に損害賠償を請求できると規定。その新条項を活用して京都のマクドナルド店が京都府警を通じて山口組本部に全額を請求した。その結果、同年8月ごろ、山口組が支払いの請求に応じて全額払い。*(チーズバーガーかまたはハンバーガーのセットかどうか、定かでないが、決してハッピーミールではなかった)

結局、チーズバーガー食い逃げ事件は改正暴対法の新条項の活用が全国初で、いわゆる「使用者責任」を認めた前例として確定。その後、山口組などの指定暴力団のトップはどんどん「使用者責任」の追及を受ける羽目。改正暴対法の拡大解釈及び新たな法律の改正で、組長たちは益々使用者責任の後始末に追われるようになった。現在、組長は、部下が凌ぎ(資金源獲得活動)で与えた被害を弁財する責務があり、恐喝も例外ではない。

今回の訴訟は独特な部分もあり、これまでの訴訟と性質も違う。元警視庁マル暴刑事が解説する。「この訴訟は裁判となり、被告側(山口組本部)が負けた場合、ヤクザの大きな痛手となる」と。「犯行は2006年で起きたもので、暴対法改正前の事件ですよ。裁判所が組長の賠償責任を認定したら、2008年以前の犯行はすべて訴訟対象となり得る。極論すれば、時効になった事件でも民事の賠償責任を追及する可能性も出てくる。賢いヤクザなら、この訴訟はパンドラの箱とみなすだろう」と付け加える。

ヤクザ専門家であり、「ヤクザと原発」の著者である鈴木智彦氏は「裏社会では訴訟はビッグニュース。これでヤクザによる殺人事件は消えてしまうわけでもないが、利害関係上、上層部その手段のコスト・パフォーマンス(費用性能比)を検討しなくちゃならないでしょう」と辛口コメント。

野崎顧問殺人事件は未解決。民法・刑法上の最終責任は判明していない。殺害命令を直接に受けたうえ、実行犯として殺人容疑で国際指名手配されていた故・近藤孝元後藤組組員は2011年4月、タイで暗殺されていた。当然、死者は命令系統を証言できない。(亡者を訴えることも不可)

法律上、後藤忠政元組長の賠償責任も曖昧。後藤元組長は野崎顧問と近藤元後藤組組員計二人の殺しを命令した疑惑が残っているが、野崎顧問が殺されてから2年後、2008年10月14日には除籍処分された。元組長の賠償責任は果たして存在するだろうか。

後藤元組長は国内外で悪名高い。一部の警察官は彼を「暴対法の生みの親」とも茶化していう。なぜかというと、彼が指揮した後藤組があまりにも堅気(一般人)に対して暴力を振るい、ヤクザに対する社会反発を高めたから。また2001年7月、FBIと取引したうえ、米国UCLA病院で肝臓移植を待っていたアメリカ人の先を越して肝臓移植を受けたこともよく知られている。また、司法当局によると、後藤元組長は山口組から除籍されたものの、新しい反社会的組織「後藤商事」(通称)を形成してヤクザまがいの事業を行っているそうだ。

司忍組長は野崎顧問殺人事件で、一度も捜査対象となっていない。裏社会・当局の情報筋は一様に司組長は殺害命令も出しておらず、承認も許可してもいないし、犯行当時は懲役中で犯行に無縁と証言している。彼が承認したのは、後藤元組長の追放だけ。(高山清若頭を通じて)。

山口組関係者は訴訟について「極めて不公平」と閻魔顔。彼は「司組長は堅気を殺すなんて認めたためしがない。司組長が『原点復帰』という方針を取り、窃盗・強盗・麻薬の売買・使用・一般人への暴力行為は絶対許さない。(恐喝や強請りは別問題。恐喝される側は大体悪いからね)。とにかく、後藤を除籍した理由は沢山ありますが、もっともあいつ(後藤元組長)は山口組の最低の倫理を守らなかったのが主因。そして巨悪事件の発生から六年経ってもまたも奴の尻拭いしなくちゃならん。けしからん」と力説する。

後藤元組長は提訴の頃、損害賠償一部を払う構えだったが、元親分の司忍組長の賠償額分の支払いを拒みたかったそうだ。後藤元組長が、側近に対して「2005年ごろ、オヤジの保釈金10億円は俺が全額払ったんだよ。ゲンナマでな。だけどね、俺を組織から追い出したんだよ。しかも一円も返済していない。保釈金の残額から払えばいいんだよ。そもそも借りなんだから」と不満をあらわにしていた。

しかし、後藤元組長は金銭的に困っている状況で無さそうだ。彼の開き直りの自伝「憚りながら」(2010年)はベストセラーとなり、新しい「事業」も順調。

後藤元組長への取材を試みたが、連絡取れなかった。情報筋によると、提訴後、本人がカンボジアで身を潜めていた。

凶暴の後藤元組長のような部下を引き継いだ司組長への同情を禁じ得ない部分もある。子分を生き埋めするわけには行けないし、そのような問題児を首にするしか術がなかっただろう。

一方、約2億円は暴力団の最高幹部なら大したカネじゃないと思われるが、保釈金が10—15億円もかかる現世は、凌ぎはきつい。組長って稼業は辛いです。

 

ヤクザ(暴力団)の組織図(一般)

メモ・原文の記事が掲載されたのが9月28日。10月4日、後藤元組長が遺族と和解して1億1000万円の賠償を支払ったうえ、哀悼の意を表した。これで仏が浮かばれると思いませんが、家族にとっては吉報でしょう。個人として野崎顧問のご冥福を祈ります。

詳細は第2報の和訳で伝えます。

 

 

 

 

 

 

 

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